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懐中時計が箪笥の向う側へ落ちて   懷錶掉在衣櫃那一邊,
一人でチクタクと動いておりました。 獨自滴滴答答地走動者。

鼠が見つけて笑いました。      老鼠發現之後笑著說:
「馬鹿だなあ。           「真是笨蛋啊。
 誰も見る者はないのに、       明明沒有人在看,
 何だって動いているんだえ」     是為了什麼一直走動呢?」
「人の見ない時でも動いているから、 「因為在沒人看見時,我也走動,
 いつ見られても役に立つのさ」    有朝一日被看見時,就會有用了。」
 と懐中時計は答えました。      懷錶回答。
「人の見ない時だけか、       「只在沒人看見時,
 又は人が見ている時だけに      或者只在有人看的時候
 働いているもの           工作的人,
 はどちらも泥棒だよ」        不管哪種都是小偷啊。」
鼠は恥かしくなって         老鼠覺得十分慚愧,
コソコソと逃げて行きました。    慌慌張張地逃走了。

夢野久作『懷錶』
(夢野久全集,選自三一書房版本。)
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